FM丹波 ギターの散歩道2025年9月放送分

9月プログラム  9月1日(金)~ 30日(火)

トークと演奏:足立ゆかり・高村浩二

今月は「秋の訪れ」をテーマにお送りしています。日本列島は酷暑の夏、地元福知山では40度超えた日もありましたが、でも、早朝から賑やかに泣いていたセミの声もやや寂しげになってきて、夜にはコオロギや秋の虫のやさしいなき声が聞こえるようになってきました。確かに季節は移ろいできています。

・ (月)「庭の千草」 (二重奏)

ギターの散歩道、本日ご紹介する曲目はアイルランド民謡「庭の千草」です。「庭の千草」「TheLastRose of Summer」原タイトルは「夏の名残の薔薇」。1884年(明治17年)小学唱歌集の3に「菊」として掲載。日本語訳は(さとみただし)が歌詞をつけて、小学唱歌として日本では歌い継がれてきました。英語のもとの歌詞は「薔薇」、日本語の訳詞は「白菊」になっているのがいかにも文化の違いを感じます。唱歌を歌って、育った世代にとって、このメロディは馴染み深く、一時はすっかり日本の曲のようになっていた時代もありました。最近では学校で取り上げられなくなったので、知らない世代も増えてきたのは、残念なことです。どの国の民謡にもいえるように、何世代も歌い継がれたメロディは洗練されており、どこにも歌いづらさがなく、すなおに歌えば格調高い音楽となっていきます。「庭の千草」は又、ギターにとっても縁のある曲で、イタリアの作曲家、マウロ・ジュリーアニによってギターソロのためのバリーエーション6つのアイルランド民謡、作品125-2、として書かれています。
編曲は先輩大谷環先生です。解説によりますとメロディはほとんどが順次進行でできていますが、ところどころに6度の跳躍があるところがミソ。この6度は俗に、ロマティック・シックス、と、呼ばれる、とても情緒深いジャンプになって、この曲を印象深いものにしています。ロマンティック・シックス、たとえば、「見上げてごらん夜の星を」などの最初を思い出してもらうと納得がいくと思います。
一種の憧れのような感情が込められ、それを意識するだけでも、このメロディに命が吹き込まれると思います。そして、メロディのもう一つの特徴は初めにロマンティック、シックスが表れ、少しずつジグザグしながら、だんだん下降していく形でできています。ギターで弾く場合は少しポルタメントが許され、メロディの最高音と最低音の音程差が1オクターヴしかない、というのも驚きです。そしてこの編曲ではソの音、がないこと。日本のヨナ抜き音階に近いのも、このメロディに親近感を覚える原因かもしれません。と記載されています。
大谷環先生は先月、闘病の末残念ながら他界されました。大谷先生のコンサートに行くとプログラムに「生きているうちは輝いて下さい。決して思い悩んだりしないで下さい。人生は束の間だから、時がその終わりを求めているから」と、現存する最古の楽譜、セイキロスの墓碑銘の歌詞が書いてあったのを思い出しています。天国の大谷先生に届きますように。

・(火)「月光」 (二重奏)

「月光」作曲者のフェルナンド・ソルは1778年、スペインのバルセロナで生まれ、古典派を代表するギタリスト、作曲家として知られています。幼少の頃、バルセロナ近郊、黒いマリア像があるモンセラート修道院の聖歌隊にいました。現在も世界的レベルの美しい声の「少年聖歌隊のミサ」が有名です。私もモンセラート修道院に行った時、日曜日お昼の、ミサの時間にタイミングよく大聖堂の中で少年聖歌隊を聞くことができました。パイプオルガンの伴奏と聖歌隊の天使のような歌声、一気に時が戻りソルも同じように歌っていたのかぁと思うとロマンでした。
「月光」この作品35-22の練習曲はギター中級者の必修科目とも言われ、ギターをやる人なら誰でも知っています。通称月光と言う題名の方が親しまれているのではないかなぁと思いますが、月光と言う呼び名はどうも日本だけのようです。ギターの世界でフェルナンド・ソルは“ギターのベートーヴェン”と言われて、諸説ありますがベートーヴェンのピアノソナタ第14番、通称“月光”のイメージを借りた、と言われています。
中級者向けの独奏の練習曲として取り上げられる「月光」はセゴビア編のソルのエチュードでは第5番にあり、美しい旋律や和声の響きが人々の心を捉え、練習曲と言うよりも月の光と言う幻想的なイメージを抱いてしまいます。「月光」独奏で弾いても良し、二重奏でも良し、ショパンは1本のギターより美しいものが唯一ある、それは2本のギターだ、と言っているように、今日は、藤井敬吾先生編曲の二重奏バージョンでお送りします。藤井敬吾先生にお話しを伺った所、月光の二重奏の曲は3度や6度のメロディラインが多く、そうではなくて単独でも曲として成り立つように書いてみました。とお話をされていました。月夜は美しく、暑さを忘れてしばし夜空を見上げて思いをめぐらすのもいいものです。

・(水) 「川の流れのように」 (足立ゆかり)

「川の流れのように」1989年平成元年1月に発売された昭和を代表する歌手美空ひばりさん、作詞秋元康さん、作曲見岳章さんにより生前最後に発表された作品です。息子の加藤和也さんは、ひばりさんはこの曲を20回も歌ってないんじゃないでしょうか?と。美空ひばりさんは「川の流れのように」を発表されすぐに他界されました。自分の歌から遠い若い世代の人達にメッセージを残したいと、命を削って世に送り出された名曲、その陰には孤独と病魔の闘いがあったそうですが遺作『川の流れのように』は平成の時代を駆け抜け150万枚を超える大ヒットとなり、今なお、幅広い世代で愛されています。日本ではギターと言えば古賀メロディーと言われるように演歌とは密接な関係にあります。昭和初期以降、レコードの進出に伴い演歌は歌謡曲として広く一般的に流行し、日本の伝統音楽と西洋の音楽が交わり、独自の世界を作り上げて日本独特の大衆音楽として普及していきます。その中、古賀政男さんは作品の中にギターを取り入れて以来、ギターは演歌、歌謡曲になくてはならない楽器の1つとなっていきます。この川の流れのようにも含め演歌歌謡曲にはメロディには歌詞が密接に結びつき、それに歌唱が加わり、あの独特な世界ができて私達の心に焼き付いています。今日の演奏は当然歌はなく、ギター1本で「歌のない歌謡曲」をやります。編曲は世界中でご活躍中のギタリスト福田進一さんです。原曲の良さを崩すことなく、クラシック風の所もあり、又ギターの特徴を最大限に活かした編曲になっています。演歌世代の人たちだけでなく美空ひばりさんの遺志のとおり時代と人とをつなぐ一曲として伝え繋いでいきたいと思います。

・(木)「メロディアスなワルツ」(二重奏)

「メロディアスなワルツ」作曲者はエンリケ・グラナドス、1867年スペイン、カタロニア地方で生まれ、スペイン近代音楽の作曲家兼ピアニストでもあります。7歳年上のイサーク・アルベニスとともに、スペインを代表する作曲家として有名で彼の作品には美しくも哀愁を帯びたメロディーが多く“スペインのショパン”“スペインのグリーグ”“ピアノの詩人”など呼ばれ、愛されてきました。グラナドス、アルベニスが作曲した楽曲は共にピアノの曲としても有名ですがギターとも深い関係があります。ギター発祥の地スペイン、ギターで歌い踊るスペイン的な響きをピアノで表現しようと努めたものであるだけに、非常にギター的で多くのギタリストに愛奏され、演奏会の重要なプログラムに加えられているものです。「詩的ワルツ集」は1887年に作曲され、序奏と7つの即興的なワルツそして終曲と9曲で構成されています。今日演奏しますのは2番目のワルツイ長調4分の3拍子、短い曲ですが明るくてキリッとしたワルツです。一度聴いたたら思わず口ずさんでしまうほど暖かさを感じます。芥川賞作家平野啓一郎さんの小説「マチヌの終わりに」を映画化、2019年に封切りされた映画「マチヌの終わりに」の劇中の場面に使われたのは記憶に新しいところです。フレーズが繰り返し表情を変えて出てきます。各場面を豊かに演奏していきます。ショパンは1本のギターより唯一美しいものがある。それは2本のギターだと言っているようにこの曲はお互いの個性を大切にしながらお互いに響きわたっていきます。皆さんによい音楽との素敵な出会いがありますように。

・(金)「赤とんぼ」 (高村浩二)

「赤とんぼ」三木露風の作詞、山田耕筰の作曲による昭和の初期に作られた日本の代表的な童謡の一つ。「夕焼け小焼けの赤とんぼ」の歌詞で始まり、夕暮れ時に赤とんぼを見て、昔を懐かしく思い出す、と言う郷愁にあふれた歌詞で、日本人なら1度は歌ったことがある歌ではないでしょうか。
「赤とんぼ」今日は私の生徒さん、リスナーMさんから「夕暮れの思い出」とお便りを頂いていますのでご紹介しましょう。
先生、こんばんは。仕事のお昼休みに聞いています。先日、夕暮れの思い出があればと言う事で思い出したのですが。奈良の大学に通っていた頃、陸上部で毎日夕暮れまで走り回っていました。ある日、若草山の頂きが燃えるように明るくなりびっくりしました。満月が登ってくる瞬間だったのですが、まるで山焼きのような山が赤く染まった光景に神々(こうごう)しさを感じ、一緒にいた友人と言葉も出ないくらい感動したことを覚えています。今ならインスタなどで映像を共有できるのかも知れませんがあの日の感動は心の中の風景として大切にしています。とメッセージを頂いています。いつもご視聴ありがとうございます。
「赤とんぼ」今日の演奏は高村浩二先生です。編曲は高知県在住、リサフォンさんは松居孝行さんのペンネームです。ギタリストとして又作曲、編曲でご活躍中です。ギター二重奏の名曲として世界中のギタリストが愛奏している〈紫陽花〉ほか、ふるさと、荒城の月等、ギターの特性を生かして書かれた曲はギターならではの演奏効果を存分に発揮された傑作揃いであり、まさに日本人の心を揺さぶります。美しい旋律はいくつもありますが、旅先でふと頭に浮かんで離れなくなったりするのがこの「赤とんぼ」のような曲だと思います。
音楽は人の世になくてはならぬもの、慰めであり、奮い立たせてくれたり、昔の夢にも誘ってくれます。日々悩みのつきないこの世にあっては一時の安らぎです。

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